
※登場人物は全て仮名です。とある体験談を参考に作られています。
カレンダーを見るたびに焦る。もう二月も半ば。息子の小学校入学と娘の幼稚園入園が、着実に迫ってきている。
「ママー、ランドセル見せてー」と息子が毎日のようにせがむ。娘は娘で「わたし、ピンクのかばん!」と譲らない。ああ、まだまだやることが山積みなのに。
そんな中、一番頭を悩ませているのがレッスンバッグだ。学校と幼稚園、それぞれの準備物リストを見比べながら、私は深くため息をついた。「レッスンバッグ(手提げ袋)」の文字が、二つの書類に並んでいる。
最初に思い浮かんだのは、やっぱり手作りだった。ママ友のグループLINEでも、「今年は手作りしようかな」なんて会話が飛び交っている。手作りって、なんだか愛情がこもってる感じがするし、子どもも喜ぶかもしれない。
でも。
私の脳裏に、あの悪夢のような記憶がよみがえってきた。
三年前、義母から譲り受けたミシンで、娘の巾着袋を作ろうとしたときのこと。動画サイトで「初心者でも簡単!」という解説動画を見ながら、意気揚々と始めたのだ。
結果は、散々だった。糸がぐちゃぐちゃに絡まり、布は縫い目が歪み、最終的にできあがったものは巾着というより「謎の布袋」。夫に見せたら「前衛芸術?」と真顔で聞かれた。あれ以来、ミシンは押入れの奥で静かに眠っている。
そういえば、あのとき夫が「買った方が早いんじゃない?」と言ったのを、「手作りの温かみがわからないの!?」と怒ったっけ。今なら素直に夫の意見に賛同できる。ごめん、あなたは正しかった。
いや、手作りを否定しているわけじゃない。器用な人はすごいと思う。心から尊敬する。でも私には無理だ。そう認めるのも、母親としての大切な判断だと、今の私は思う。
決心した。今回は潔く、買おう。
スマホを手に取り、通販サイトを開く。検索窓に「レッスンバッグ」と入力すると、画面いっぱいに色とりどりのバッグが並んだ。
こんなに種類があるの!?
恐竜柄、お姫様柄、宇宙柄、動物柄、シンプルな無地、北欧風のデザイン...。見ているだけで目移りしてしまう。しかも値段も手ごろ。これなら二つ買っても、ミシンの糸とか布とか買うより安いかもしれない。
息子は恐竜が好きだから、ティラノサウルスの柄がいいかな。娘はやっぱりピンク系のかわいいやつ。そう考えながらスクロールしていると、ふと気づいた。
レビューの数がすごい。数百件、商品によっては千件を超えるレビューがついている。
私は口コミを読むのが好きだ。いや、好きというより、もはや習慣になっている。買い物をするとき、必ずレビューをチェックする。星の数だけじゃなく、実際に使った人の声が知りたい。
「思ったより大きかった」「子どもが喜んで使っています」「洗濯してもへたれません」
一つ一つの口コミに、リアルな使用感が詰まっている。写真付きのレビューは特に参考になる。実際に子どもが持っている様子が見られるし、サイズ感もよくわかる。
あるレビューにこう書いてあった。
「幼稚園の荷物って、意外と多いんですよね。着替えにお弁当箱、コップ、ナフキン...。薄いバッグだと入りきらなくて困っていたんです。でもこれは安心!」
そうなのだ。そうなのだ!私も同じことを心配していた。特に娘の幼稚園。説明会で配られた持ち物リストを見たとき、「これ全部入るの?」と思ったものだ。
さらに口コミを読み進めていくと、あるワードが頻繁に出てくることに気づいた。
「マチあり」
マチ。そうか、マチだ!
考えてみれば当然なのだ。平面的なバッグより、マチがある方が収納力がある。でも、レッスンバッグを探し始めるまで、そこまで深く考えたことがなかった。
検索窓に「レッスンバッグ マチあり」と入力し直してみる。すると、さらに絞り込まれた商品が表示された。横から見た写真で、しっかりとマチの厚みが確認できる。
口コミを見ると、やっぱりマチありの重要性を説く声が多い。
「マチがあるから、お弁当箱が横にならない!」 「教科書も立てて入れられるから、探しやすいみたい」 「上履き入れとは別で、こっちに体操服を入れてます。余裕で入る!」
なるほど、なるほど。みんな、よく考えて選んでいるんだなあ。
私なんて最初、「かわいければいいや」くらいに思っていた。でも実際に使うのは子どもたち。使いやすさって、すごく大事だ。
ちなみに、上の子の小学校は指定サイズがあった。縦30センチ、横40センチ。これ、意外と大きい。A4サイズの教科書や、図書館で借りた本も入れるらしい。そうか、だからこのサイズなんだ。
下の娘の幼稚園は、特にサイズ指定はなかったけれど、「市販のレッスンバッグで大丈夫です」とのこと。ありがたい。自由度が高すぎても迷うけれど、これくらいがちょうどいい。
さて、機能面はマチありで決まり。次は柄だ。
息子に「どんな柄がいい?」と聞いたら、「恐竜!」と即答。わかりやすい。でも、ただの恐竜じゃダメらしい。「かっこいい恐竜がいい」とのこと。かっこいい恐竜...。
画面をスクロールしながら、息子を呼んだ。「これは?これは?」と見せていくと、「それ!」と指差した柄があった。ティラノサウルスとトリケラトプスが、かっこよくデザインされている紺色のバッグ。確かに、これはかっこいい。
問題は娘だ。
「ピンクがいい」とは言うものの、見せる柄見せる柄、反応が微妙。「うーん」「ちがう」「これもちがう」。
女の子の好みって、本当に難しい。
結局、ユニコーンとお花が散りばめられた、淡いピンク色のバッグを見せたら、「これーーー!!」と歓声をあげた。よかった。決まった。
カートに二つのレッスンバッグを入れる。サイズも確認した。マチも確認した。口コミも十分読んだ。
ポチッと注文ボタンを押す瞬間、なんだか達成感があった。
手作りしなくても、ちゃんと子どものことを考えて選んだ。サイズも機能も、子どもの好みも。それって、十分愛情がこもっているんじゃないだろうか。
そもそも、手作りが絶対じゃない。大切なのは、子どもたちが気に入って、使いやすいものを用意すること。それが親の役目だと、今の私は思う。
ミシンと格闘して、結局使えないものを作るより、よっぽどいい。時間も労力も、もっと他のことに使える。たとえば、入学前の最後の思い出作りとか。
そういえば、週末に息子と一緒に文房具を買いに行く約束をしていた。娘は、お弁当箱を一緒に選びたいと言っている。そっちの方が、きっと子どもたちにとっても楽しい思い出になる。
数日後、レッスンバッグが届いた。段ボールを開けると、画面で見たとおりの柄。いや、実物の方が素敵かもしれない。生地もしっかりしているし、縫製も丁寧。
「わー!ぼくのきょうりゅう!」 「ママ、かわいいーー!」
二人の歓声が、リビングに響いた。
息子は早速、ランドセルの隣に並べている。娘は、バッグを持ってくるくる回っている。その姿を見て、私も自然と笑顔になった。
レッスンバッグは無事に用意できた。でも、準備はこれで終わりじゃない。名前シールに、上履きに、体操服に、お弁当グッズ...。まだまだやることはある。
でも、なんだか少し肩の荷が下りた気がする。完璧じゃなくていい。手作りじゃなくてもいい。大事なのは、子どもたちが笑顔で新しい環境に飛び込んでいけること。
私ができることは、その準備を整えること。そして、不安な気持ちに寄り添うこと。
「ママ、小学校、楽しみだよ」と息子が言う。 「ようちえん、いっぱいおともだちできるかな」と娘が言う。
大丈夫。きっと大丈夫。
そう答えながら、私も新しい生活にドキドキしている。二人が同時に入学入園なんて、私にとっても初めての経験。バタバタするだろうし、忘れ物もするかもしれない。
でも、なんとかなる。なんとかする。
通販サイトの口コミを読みながら、同じように準備を頑張っているママたちがいることを知った。みんな、試行錯誤しながら、子どものために最善を尽くしている。
私も、その一人だ。
レッスンバッグを手に、嬉しそうにしている子どもたちを見ながら、そう思った。春は、もうすぐそこまで来ている。